2020年11月7日土曜日

クォークのケン、ケン、パ!

週末に外を散歩していたら、道路にチョークで「ケン・ケン・パ」の丸がいくつも書いてあることがある。近頃は子供もオリジナリティを増していて、単なる丸ではなく、花や女の子など、いろんな絵がカラフルに描かれている。道路いっぱいに描かれた絵も時間が経って雨が降ると消えるのが残念だ。

クォーク場が拡がるとき、空間に巻きついたインスタントンに出会うと、すっと吸い込まれてスピンの向きを変えて出てくる。必要なエネルギーはゼロなので、何もロスなしに拡がることができる。そういう話だった。では、もしインスタントンがそこら中にいっぱいあったらどうなるだろうか? クォークはインスタントンと反インスタントンがばらまかれた空間を、上手にインスタントンを渡り歩きながらどんどん遠くまでロスなしに伝わることができるだろう。遠くまで減衰することなく伝わる場。つまり、それに対応する粒子は軽いことを意味する。これこそが、クォークの立場で見た「パイ中間子が軽い理由」だ。

しかし、まだわからないことがある。なぜパイ中間子だけが軽いのか。クォークがインスタントンを渡り歩くだけなら、クォーク自体が軽く、それからできる中間子はすべて軽くならないとおかしい。この疑問に対する解答は、スピンにある。インスタントンを同時に通り抜けられるのは、クォークの種類1つにつき1個だけ。しかも、右巻きのクォークか左巻きの反クォークのどちらかだけが通ることができる。(反インスタントンはその逆。)つまり、クォークが通過中は同種類の反クォークが通ることはできない。かつ、クォークと反クォークでは受け付けるスピンの向きが逆であることに注意しよう。だから、一つのインスタントンを揃って通り抜けられるのは、例えば右巻きのアップ・クォークと左巻きのダウン・クォーク、ということになる。これはちょうど荷電パイ中間子に相当する。クォークと反クォークのスピンが逆向きになっているので、パイ中間子のスピンはゼロだ。この組み合わせなら、クォークと反クォークはそろってインスタントンの間をどこまでも飛び移っていくことができる。軽いパイ中間子のできあがり、ということになる。

もう一つ、ロー(ρ)中間子というのがある。これはスピン1をもつ中間子で、クォークと反クォークのスピンがそろっている。この場合、かわいそうにクォークと反クォークは同じインスタントンを経由することはできず、一度別れて別々のインスタントンと反インスタントンを探して通り、また出会う必要がある。これは中間子にとっては相当のペナルティになる。そういうわけで、ロー中間子はずいぶん重くなってしまうわけだ。

どうだろう。自発的対称性の破れの背後には、こういう仕組みが働いているらしい。これならクォークの気持ちになって理解できた気がしないだろうか。残る問題は、実際にこういうインスタントンはこんなふうに空間に散らばっているかどうか、ということになる。


0 件のコメント:

コメントを投稿