2020年10月23日金曜日

広い世界でたまたま出会った

物理学を学ぶときは、式変形を一つずつ確認しては、頭の中で対応する現象をイメージする、その繰り返し。どちらが欠けても十分な理解には至らない。そのイメージの部分だけを抜き出して語ることにしたので、なんだか単にとりとめのない話になってしまっている。本当に学びたい人は、ちゃんとした教科書でどうぞ。

K中間子の質量を読み取る方法はわかった。K中間子の場が減衰する様子を調べればよい。最初は、K中間子の状態だけでなくその励起状態が混ざったものを見ることになるが、虚時間で離れるとエネルギーの高い励起状態はその分速く減衰するので、遠くまでいくとほとんどなくなってしまう。最後にはエネルギーの小さいK中間子だけが残るので、その減衰の速さを見れば、それがK中間子の質量だ。

減衰の速さだけではなく、残った波動関数の大きさからは何がわかるだろうか。そこからは、真空からK中間子の状態を作るときの波動関数がわかる。K中間子と同じクォーク・反クォークの組み合わせとスピン(=角運動量)をもった生成演算子と消滅演算子を使って、真空からK中間子を作ったり消したりするわけだが、その強さというか、効率がわかることになる。この生成・消滅演算子は、勝手に選べるものではあるが、もし自然界に存在する演算子をもってくると、現実のプロセスの確率を計算することに相当する。「自然界に存在する演算子」とは、弱い力が作る演算子のことで、Wボソンが飛んできてクォーク・反クォーク対に変わるときに現われる演算子のことだ。ここまでくると、ほぼ実際に起こる現象をそのまま計算するのに相当する。どこかからWボソンが飛んできてクォークと反・クォークに変わり、それがしばらくK中間子として飛んだあとで、またWボソンに戻る。こういう過程があったとしたら、その確率を計算するやり方がわかったということになる。

「自然界に存在する演算子」はこれだけではない。しばらく前まで、K中間子と反K中間子が互いに入れ替わる過程があるという話をした。そのなかでも、粒子と反粒子を入れ替えたときの非対称性(時間を反転したときの非対称性と言ってもよい)に効くのは、Wボソンとトップ・クォークを介してストレンジ・クォークがダウン・クォークに、同時に反ダウン・クォークが反ストレンジ・クォークに変わる過程だった。Wボソンもトップ・クォークもずいぶん重い粒子なので、それらが仮想的に飛べる距離は非常に短くなる。K中間子の中でふわふわと漂うクォークにとっては、ほぼ一点だと考えてもよい。つまり、この複雑な過程を一点で起こす生成かつ消滅演算子を考えることができる。これもある種の「自然界に存在する演算子」だ。

なるほど。この演算子が突然現われたときに、K中間子がどれだけの確率で反K中間子に変わるかを調べるには、実際にそういう過程を計算してみればよい。さっきと同じようにしてK中間子に対応するクォークと反クォークを作り、しばらく飛ばして励起状態がなくなったところを見計らって、今度はさっきの粒子・反粒子を入れ替える演算子を挿入する。そこでクォークと反クォークがそれぞれ一度消滅し、同時に別のクォークと反クォークが生成される。こうして生まれたクォークと反クォークをもう一度しばらく飛ばして励起状態がなくなったころに消滅演算子で消す。この過程全体の確率を計算することができそうだ。

計算のやり方はわかった。問題はその中で何が起こっているのかだ。粒子・反粒子が入れ替わるのは、空間のある一点に置かれた演算子のおかげだ。この演算子がはたらくためには、K中間子のなかのダウン・クォークと反ストレンジ・クォークがある瞬間ちょうど同じ点にいて、演算子によって消される必要がある。普段は中間子のなかでふわふわと漂っているクォークと反クォークが、たまたま同じ点にいる確率を調べるという話になる。水素原子のなかの電子を思い浮かべるとよい。電子の波動関数は空間にある大きさで拡がっているが、それは原子の中心にもつながっている。波動関数全体の中で、たまたま中心にくるのはそれほど大きな割合ではないだろう。それと同じで、K中間子のなかでふわふわと拡がったクォークも、たまたま反クォークと出会うことがある。その瞬間に粒子・反粒子の入れ替える魔法が働いたときに、この過程が起こるというわけだ。

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