2020年10月2日金曜日

ごちゃごちゃの中に答えはある

秋の涼しいさわやかな空気を満喫しておられるだろうか。せっかくだから風を感じながら野外でのんびり散策など楽しみたい。だが、空気などの気体は、よく細く見てみると小さな分子が互いにぶつかり合いながらめちゃくちゃに動き回っているらしい。さわやかな風からは想像できないが、分子は毎秒1キロメートル以上の高速で飛び回り、私たちの体にぶつかっている。それでも涼しい顔でいられるのは面の皮が厚いからか。

クォークとグルーオンの理論を解きたい。グルーオンは勝手に自己増殖するので、その個数はわからない。何個あるかわからないグルーオンのそれぞれに波動関数があるはずで、そのすべての組み合わせに対応する波動関数をすべて求めるのは無理な話だ。だから、場の量子論の計算では少し違う考え方をとる。まず、すべての波動関数を求めることはあきらめる。その代わりに、実験と比較するために必要な量が求まったらそれで満足しよう。当面それで十分ではある。(将来の量子計算では、この制限はなくせるかもしれない。すべての粒子数に対応する波動関数とその重ね合わせを計算してしまおうという壮大な夢は、あるにはある。)

実際にはどうするか。まずは何もないところから始めるとしよう。「場」の理論なので、空間のすべての点にグルーオンの波をあらわす場の変数が置かれていて、これが振動する。最初はすべての点で何もない、つまり場の変数がゼロだったとしよう。しかし、これは量子論なのでこのままではすまない。量子力学では変数の値を一つに固定しておくことができず、ゆらぎが生ずる。これを実現するにはいろんなやり方があるが、その一つは、空間のすべての点の場の値をランダムに動かしてみることだ。ただし、むやみに動かすわけではない。空間に広がる波の形があまりにトゲトゲになるようなことは起こりにくく、できるだけ滑らかになるものが実現する。これを保証しているのがいわゆる運動方程式というやつで、ランダムなゆらぎさえなければ、場の変数は運動方程式にしたがって秩序だって揺れて波をつくる。池の水面の波のような、予想可能な波だ。量子論では、これにランダムな揺らぎが加わる。しかも空間の各点で別々の揺らぎだ。これが量子力学でいうところの波動関数の広がりを作り出すことになる。

こうして「場」が動き始めた。波打つ場の様子は、実際の時間変化をあらわしているわけではない。単に、量子力学にしたがう揺らぎを作り出すための方便だ。波動関数はそれ自身が実体で、空間に広がった何かだが、今の場合、グルーオンの場の変数自身がすでに空間全体に広がっている。その変数の空間の各点での揺らぎがさらに、あるやり方で幅をもっており、これが量子化による不確定性ということになる。動き続ける場は、その(仮想的な)時間平均を取ると、全体として場の揺らぎを表現する波動関数を与えることになる。

ここにはグルーオンの個数という概念はもはやない。適当に波打ち、変化し続ける場がそこにあるだけだ。その全体がある種の波動関数を与えているということになる。ちょっと難しいだろうか。場の量子論の最初の難関である、「第二量子化」の手続きをだいぶはしょって説明してみた。本当に理解するには分厚い教科書を読む必要があるが、イメージを持つだけならこれで十分だろう。

別の言い方で、ファインマンの「経路積分」というのがある。これも同じことなのだが、空間の各点に置かれた場の変数のそれぞれを、マイナス無限大からプラス無限大まで動かして積分を計算せよという理論で、結果は上記のランダムな場の動きと同じになる。上記のほうが実際に行うシミュレーションに近く、したがって私のイメージにも近いので、そちらで紹介してみた。

だが、まだ何も起こってない。何もない「真空」中をあらわす場がゆらゆらしているだけだ。ここに実際の粒子を飛ばしてみなくてはならない。

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